「電通『月200時間残業社員』職場」で感じたこと

汐留電通本社ビル

汐留電通本社ビル

「先月は残業時間が200時間」で職場見学へ

「『ブラック企業大賞2017』の候補会社が発表された」という報道に触れ、まだ電通本社が数寄屋橋交差点とJR新橋駅とを結ぶいわゆる「電通通り」にあったころ、電通本社から銀座中央通り方面に少し入ったところにあった(ほとんどの方が当時の社名を覚えていらっしゃると思える)電通の関連会社内に立ち入らせてもらえたときのことを思い出しました。

というのも、その会社で働いている(留年しなければ4年間クラスメンバーはずっと一緒というシステムで運営されている)大学の同級生と有楽町駅の周辺で昼食を共にしたときに、
「先月は残業時間が200時間だった。職場は近くだからどんな環境下で働いているか見ていく」という問いかけがあり、
私がお仕えしていた代議士は自民党政調会の厚生労働部会にも所属されていたので「参考になるかも」と考えて同行させてもらったからでした。

「接客用の長椅子がベッド代わり」という日常

行ってみると当時どこにでもあるタイプのオフィス風景が目の前に広がっていて、ほぼすべての社員の方は外出とか打ち合わせとかで離席中でしたので、
「給与水準の高い会社が残業代もちゃんと付けてくれるから収入面での不満はないのだけれども、この(背もたれ部が倒れるようになっていないので寝返りを打つ余地もない)応接セットの長椅子の部分に昼の服装のまま上に毛布1枚を掛けて横になって仮眠をとって日曜日も含めて仕事をするわけだから、疲労はたまっていくよね。でも、納期に間に合わせなければお客様に迷惑をかけてしまうし、『責任感』が心の支えになっていて何とか身体とのバランスが取れているんだろうね」
という率直な発言を聞かせてもらえました。

「自由行動時間」は恐らくほぼゼロ

そして、この発言を耳にしたときには「法定労働時間超対策はどうなっているんだろう」とか「残業代をどんな名目でいつ支払ってもらっているのだろう」とかいくつかの疑問が私の頭の中をよぎっただけでしたが、少ししてから、
1日が24時間で1か月を30日として計算すると月間の総生活時間は720時間、
その中で9時間拘束(=勤務時間8時間+昼休み時間1時間)の日が20日間で正午まで3時間勤務の日が5日間として計算すると正規の拘束労働時間は195時間(全体の27%)、
それに(全体の28%に相当する)200時間の残業時間を加えると月間労働時間は総生活時間の55%、
残りの45%(=325時間)の中には、1日6時間としても30日間だと睡眠時間が180時間、(「社内で仮眠の日」は通勤時間がゼロになるので実所要時間の三分の二にあたる)往復2時間と仮置きして25日間でドアツードアの通勤時間が50時間、両者を併せて230時間が含まれますから、
この分を差し引いた残りの95時間(土日を含めて1日平均3時間)の中で「食事」「身のまわりの用事」「家庭雑事」といった「必需行動時間」を確保すると「マスメディア接触」「休息」「レジャー活動」といった「自由行動時間」に割ける時間は恐らくほぼゼロ、と分かってきました。

「ブラック企業化」直前の状況を見たのかも

とはいえ、同級生本人は、(どなたもご存じの有名中・高一貫校の卒業生でうらやましさを感じさせられるぐらい幅広く深い趣味の世界を持っていましたから「自由行動時間をあまり持てないストレス」を人一倍受けているのだろうという懸念は持っていましたが)、
クラス会で会ったり電話で話したりしていても、疲れから思考能力が落ちているということもないようでしたし、健康を害しているようにも見えませんでしたし、ほどなくその職場でアシスタントを務めてくれていたお嬢さんと結婚して家庭を持ち、社内では管理職になり、専門家として断りきれずに副収入を伴う社外講演会などの講師をされたりしていましたので、
少なくとも当時のその職場内の空気は重苦しいものでなく、この頃の「電通」はまだ「ブラック企業化」しきっていなかったのではないだろうか、と私には思えます。

「ブラック企業化」の背後にあったもの

ですが、残念なことに、その後の「電通」は何人もの過労被害社員を生み出し、監督官庁の検査対象化と経営陣の交代を経て、「ブラック企業大賞2016」の受賞会社となってしまいました。

「電通」という会社の社内事情を知る機会はまったくありませんでしたが、別のある大企業の社内で役員と社員の皆さんに起きた様々なことを約20年間詳細に見聞きする機会がありましたので、そこから類推すると、
「電通」社内ではこの20年ぐらいの間に
「四半期決算定着化の進行と各期毎の収益目標達成圧力の強まり」
「コスト低減のための(残業を依頼できない)契約社員・外注先社員の職場内受け入れ比率増」
「同じ理由での(少し前であれば当然あった先輩社員による実演指導を簡略化した)新入社員の即戦力化」などが起きていたように思えますし、
場合によっては「『これだけ貢献してきたのだから社会問題化するような事案が発生しても政府や政治家はかばってくれるはず』という過大な期待感が邪魔をして危険の芽を取り除く作業に取り掛かり損ねたのでは」などとも考えています。

二度と過労被害社員を生み出さない会社に

「電通」社内では、これから「未払い残業代」が支払われ、試行錯誤を重ねながら「社内での働き方改革」が進められていくのでしょうが、
新しい経営陣によって登用された人たちの中に「1年間で執行役員を解任されるような不適切な人材」が間違って含まれるなど新しい障害物が置かれてしまうかもしれません。

「電通」は「(自他ともに認める)各方面での才能を持った方々」の宝庫のような会社ですから、
(「過渡期における収益減」については株主の方々の理解を得て)、「二度と過労被害社員を生み出さない会社」と「世界的に評価される優良会社」の両立を図っていただきたい、と心から願っています。

(投稿日:2017/11/28  更新日:2020/06/05)

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